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東京高等裁判所 昭和63年(ネ)977号 判決 1989年7月06日

控訴人 大井和子

右訴訟代理人弁護士 深田源次

被控訴人 五十嵐かおる

右訴訟代理人弁護士 成毛由和

成田茂

佐々木和美

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  被控訴人は、控訴人に対し、別紙物件目録(一)記載の施設物内の約三八・九四平方メートルの部分(別紙図面表示イ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次直線で結んだ範囲の店舗部分。以下「本件店舗」という。)を明渡せ。

2  被控訴人は、控訴人に対し本件店舗内における別紙物件目録(二)記載の各備品(以下「本件備品等」という。)を引渡せ。

3  被控訴人は、控訴人に対し、昭和六〇年八月一四日から本件備品等の引渡完了に至るまで一か月一八万七〇〇〇円の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

5  仮執行の宣言

二  被控訴人

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (本件施設物の使用承認)

大井慶寿(以下「慶寿」という。)は、昭和四七年一一月一〇日ころ別紙物件目録(一)記載の施設物(以下「本件施設物」という。)を東京高架株式会社(以下「東京高架」という。)より使用の承認を受け(以下「本件施設物使用契約」という。)、そのうち東京駅側寄り約三八・九四平方メートルの本件店舗部分において、自己の所有する本件備品等を使用して、飲食店鳥慶(以下「本件飲食店」という。)を経営していた。

2  (本件店舗の明渡請求)

(一) 慶寿は、昭和五七年五月三一日被控訴人との間で次のとおりの契約(以下「本件契約」という。)を締結し、本件飲食店の経営を被控訴人に委託し、本件店舗を被控訴人に引渡した。

(1) 経営委託期間は契約の日から三年とする。

(2) 被控訴人は慶寿に対し経営委託費として月額一六万円、保証金として一〇〇万円を支払う。

(二) 控訴人は、昭和六〇年八月七日慶寿から、本件飲食店の経営権を譲り受け、同月二〇日東京高架より同年九月一日以降の前記本件施設物使用の権利を得た。

(三)(1) 昭和六〇年五月三一日、右委託期間が満了し、右契約は当然終了した。

(2) 仮に、慶寿がその後昭和六〇年六、七月分の委託料を受領したこと等により本件契約の継続が黙示的に承諾されたとすれば、本件契約は期間の定めのない契約となった。慶寿の地位を承継した控訴人は、被控訴人に対し同年八月一三日及び同月二六日到達の各書面により本件契約を解除する旨の意思表示をしたので、本件契約はその翌日である同年八月一四日又は同月二七日終了した。

(四)(1) 仮に、本件契約が本件店舗の賃貸借契約であるとしても、次のとおりの事情に照らせば、本件契約には借家法の適用はないというべきであるから、昭和六〇年五月三一日に三年の賃貸借期間の満了により本件契約は終了した。

(ア) 慶寿が東京高架より承認された本件施設物使用の権利については、国鉄運営上の諸制約があり、借家法をそのまま適用すべきでない。

(イ) 本件店舗は、国鉄高架下の施設であり、しかも慶寿が東京高架より借り受けている部分をさらに区切った一部であって、独立性に乏しく、借家法の適用がある建物とはいえない。

(2) 仮に、慶寿が、右期間内満了後の昭和六〇年六、七月分の賃料を受領したこと等により本件契約の継続が黙示的に承諾されたとすれば、それは期間の定めのない賃貸借となった。慶寿の地位を承継した控訴人は、被控訴人に対し同年八月一三日及び同月二六日到達の各書面により解約申入れをしたので、民法六一七条一項二号により本件契約は三か月後の同年一一月一三日又は同月二六日をもって終了した。

(五)(1) 仮に、本件契約に借家法の適用があるとしても、本件契約は、昭和五七年五月三一日から満三年の昭和六〇年五月三一日をもってその賃貸借期間が満了したから、控訴人は後記正当事由をもってその更新を拒絶する。

(2) 仮に、本件契約が法定更新され期間の定めない賃貸借となったとしても、控訴人は、被控訴人に対し昭和六〇年八月一三日及び同月二六日到達の書面により本件契約解除の申入れをなし、右解約申入には後記のとおりの正当事由がある。したがって、本件契約は六か月後の昭和六一年二月一三日又は同月二六日限り終了した。

(3) 右解約申入れが理由がないとしても、控訴人は、本件訴状(昭和六一年三月二五日被控訴人に送達)をもって本件契約の解約申入れをしたから、右送達の六か月後の同年九月二五日をもって本件契約は終了した。

(4) 正当事由

(ア) 本件契約には、慶寿の次女小野孝子(以下「小野」という。)を飲食店営業に関与させなければならないという特約があったにもかかわらず、被控訴人は右特約に反し、昭和六〇年七月三一日、慶寿に無断で小野をやめさせて、その営業を独占した。

(イ) 被控訴人は、慶寿に無断で、昭和五八年四月二二日ころ、被控訴人名義で本所保健所より本件店舗につき飲食店営業の許可を受け、昭和五九年一〇月一五日付で右営業を廃業したこととして被控訴人を代表者とする有限会社フォーカスの名義で右同様飲食店営業の許可を受けている。

(ウ) 本件契約は、東京高架との関係では転貸借にあたるが、本件施設物使用契約においては、本件施設物を第三者に使用させたり、その権利の譲渡、営業の委任等を行うことの禁止の特約が存在するところ、、本件契約の存在が東京高架に知れて、右東京高架は控訴人に対し、第三者による施設の無断使用は遺憾であるから、昭和六一年九月三〇日限り、右状況を解消するように通告してきた。

(エ) 被控訴人は、昭和六一年五月四日控訴人に断りなく、本件店舗内の改造工事をはじめた。控訴人は、同人らに対し、直ちに工事の中止を求めたが、同人らはこれを聞こうとしないので、本所警察署を介して再度工事の中止を求め、ようやく、後日の話合いを持つということで一応の決着をみた。ところが、同月七日、同人らは右話し合いを持つことなく、工事を再開した。そこで、控訴人は、弁護士を介して工事の中止を求めるとともに、同月一四日東京地方裁判所に工事中止の仮処分を申請したが、同人らは右裁判所の審尋が継続しているにもかかわらず、同月一九日より翌二〇日にかけ、深夜を利用して三度目の工事を行い、店内一部の改造を強行した。その後、同月二七日、和解が成立して、同人らは本件の判決言渡に至るまで工事をしてはならぬこととなり、一応工事は取り止めとなっている。

(オ) 被控訴人は、本件店舗の借主として開店当初僅かに出勤しただけで、その後は身分関係もなく、単なる従業員でもない東千代美を責任者として、その経営一切を行わせており、このことは、被控訴人自身本件店舗を経営する余力と必要のないことを示すものである。

(カ) 被控訴人の父で東京都議会議員をしていた省悟は、本件店舗を自己の事務所として使用しており、これは無断転貸に近似した背信的行為である。

3  (本件店舗の明渡請求以外の請求)

(一) 控訴人は、昭和六〇年八月七日慶寿より本件飲食店の経営権を譲り受け、それに伴い本件備品等の所有権をも譲り受け、また、同月二〇日東京高架より同年九月一日以降の前記施設物使用の権利を得た。

(二) 被控訴人は、控訴人に対して本件店舗内において飲食店営業を行い、本件備品等を占有している。

(三) 本件備品等の使用相当損害金は、一か月あたり一八万七〇〇〇円とするのが相当である。

4  よって、被控訴人は控訴人に対し、本件店舗の明渡し及び本件備品等の引渡しとともにその占有開始後の昭和六〇年八月一四日から本件備品等の引渡完了に至るまで一か月一八万七〇〇〇円の割合により使用料相当額の損害金を支払う義務がある。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(一)の事実中、被控訴人が本件店舗を占有していることは認めるが、その余は否認する。2(二)の事実は認める。

3  同2(三)(1)の事実は否認する。2(三)(2)の事実中、控訴人から各書面の送達のあったことは認めるが、その余は争う。

4  同2(四)(1)の事実中、本件契約が、本件店舗の賃貸借契約であることは認め、その余は否認する。本件契約は借家法の適用ある賃貸借である。2(四)(2)の事実中、被控訴人が昭和六〇年六、七月分の賃料を支払ったこと、本件契約が期間の定めのない賃貸借となったこと及び、各書面の送達のあったことは認め、その余は争う。

5  同2(五)(1)の事実中、本件契約が借家法の適用ある賃貸借であることは認め、その余は否認する。2(五)(2)の事実中、控訴人が被控訴人に対し、その主張の解約申入れをしたことは認め、その余は否認する。2(五)(8)の事実中、本訴状がその日時に送達のあったことは認め、その余は争う。

6  同2(五)(4)の各(ア)ないし(カ)の認否は次のとおりである。

(ア)の事実は、否認する。(イ)の事実中、無断での点を欠き、その余は認める。(ウ)の事実のうち、特約及び東京高架からの通告の存在は認め、その余の事実は不知。(エ)の事実のうち、被控訴人が工事を行ったこと、控訴人が仮処分の申請をしたこと、控訴人、被控訴人間に控訴人主張のような和解が成立したことは認め、その余は否認する。(オ)の事実は否認する。(カ)の事実は否認する。

7  同3(一)及び(二)の事実は認める。3(三)の事実は否認する。

三  被控訴人の抗弁(請求原因3について)

1  被控訴人は、昭和五七年五月三一日慶寿との間で、本件店舗及び本件備品等につきこれを一体のものとして、本件契約を締結した。

なお、右契約は、契約書上は経営委託契約とされているが、その実質は、期間を契約の日から三年とし、賃料を月額金一六万円とする賃貸借契約である。

2  本件店舗は、借家法の適用がある「建物」であるから、昭和六〇年五月三一日の経過により、本件契約は法定更新された。

3  仮に、法定更新が認められないとしても、被控訴人は、本件契約の期間満了の日である昭和六〇年五月三一日以降においても、本件店舗・備品等の使用を継続していた。そして、これに対し、慶寿は何の異議も述べず、昭和六〇年六・七月分の賃料を被控訴人から任意に受領した。したがって、本件契約は黙示に更新されている。

4  控訴人は、昭和六〇年八月七日慶寿より本件契約における賃貸人としての地位を譲り受けた。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は否認する。

慶寿との間において締結された契約は経営委託契約であって、賃貸借契約ではない。

2  同2の事実は否認する。

仮に賃貸借契約であったとしても、借家法の適用のないことは、請求原因(四)(1)のとおりである。

3  同3の事実のうち、被控訴人が昭和六〇年五月三一日以降も、本件店舗・備品等の使用を継続していたとの点は認め、その余は否認する。

4  同4の事実は認める。ただし、控訴人との間の本件契約はすでに終了している。

五  再抗弁

請求原因(五)(1)ないし(4)のとおり。

六  再抗弁に対する認否

請求原因(五)(1)ないし(4)に対する被控訴人の認否のとおり。

第三証拠《省略》

理由

第一  本件店舗の明渡請求について

一  請求原因1の事実、すなわち、慶寿が昭和四七年一一月一〇日ころから東京高架より本件店舗を含む本件施設物の使用の承認を受け、本件店舗において自己の所有する本件備品等を使用して飲食店「鳥慶」の経営を営んでいたことは当事者間に争いがない。

《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

慶寿は、昭和五七年ころ自分はもう八〇歳に近いので、本件飲食店の経営から手を引きたい。誰かに本件備品等を含めて本件店舗を貸したいのだけれど店をやってくれる人はいないかと、省悟に相談した。省悟は当時東京都都議会議員であり、慶寿がその応援者であったことから、本件店舗の借主を探したが、見つからなかったので、当時何も仕事をしていなかった自分の娘の被控訴人に本件店舗を借りて本件飲食店経営をやってみるかと話したところ、被控訴人がこれに応じた。そこで、慶寿と被控訴人とは、同年五月三一日ころ省悟の立会いの下で本件備品等を含めた本件店舗について本件契約を締結し、契約書(甲第二号証)を取交わした。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

ところで、成立に争いのない甲第二号証によれば、右契約の証書として作成された同号証では、その標題が「経営委託契約書」となっており、また、その文言上から、右契約は、賃貸借ではなく経営の委任であるように見える。

しかしながら、前記認定の事実に《証拠省略》を併せ考えると、次の事実が認められる。

慶寿は、当初から本件店舗及び本件備品等の賃貸借契約を考えており、契約の締結は、終始賃貸借ということで進められたが、契約書を作成する段階になって、省悟が顧問弁護士に相談したところ、本件店舗は旧日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)の高架下だから転貸借はできないのではないかということで、右弁護士が「経営委託契約書」なる契約書案を作成した。被控訴人は、本件店舗の占有使用の当初から、慶寿から指示を受けることも慶寿に会計報告をすることも全然なく、被控訴人自身の意思と営業資金をもって、材料の仕入れ、従業員の雇用関係、店舗内装の改修、備品の調達を含め本件店舗における飲食店の経営の一切を被控訴人の計算において行い、慶寿においても、もともと右営業に口出しする意思もなく、契約を締結してから後に自らの廃業届を作成して被控訴人に手渡しており、営業に口出しをしたこともなかった(契約書においても、経営については被控訴人の責任で行うこととされていた。)営業利益の分配等はなく、営業成績に関係なく一か月金一六万円の定額を支払うこととされた。本件店舗の隣では、慶寿の息子の嫁である控訴人が同じく飲食店「ありがとう」を経営していたが、被控訴人は、独立の営業主として本件店舗で飲食店を経営することになったことから、本件店舗と右「ありがとう」との水道を分岐した。被控訴人は、本件店舗における飲食店の経営にあたっては、店の名前を変えることを考えたが、全く別の名前にすることは営業上好ましくないと考えて、従来の「鳥慶」を「鳥けい」と改めるに留めた。

以上の各事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

以上の事実によれば、慶寿と被控訴人との間に締結された前記契約は、慶寿において、被控訴人から一定額の金員の支払を受ける対価として、飲食店経営のため本件店舗及び本件備品等を被控訴人に使用収益させることを目的とする契約であり、したがって、右契約は、その実体から見て、慶寿と被控訴人間の本件店舗及び本件備品等に関する賃貸借契約(東京高架との関係においては転賃貸契約となる。)であると解するのが相当である。

二  請求原因2(二)の事実、すなわち、控訴人が昭和六〇年八月七日に本件契約における慶寿の地位を譲り受けたことは当事者間に争いがない。

なお、《証拠省略》によれば、控訴人が、東京高架との間で、昭和六〇年八月二〇日に本件施設物使用契約についての名義変更契約を締結したが、これは、慶寿が本件店舗における経営を廃業し、控訴人がこれを承継したいとの控訴人の申し入れに基づき、本件施設物に関する国鉄高架下施設物使用契約書の二〇条四項の手続に従ってなされたものと認めることができるから、控訴人は、慶寿と東京高架間の本件施設物使用契約を前提として、右名義変更契約を締結しているのであって、これによって、東京高架の承認を得て本件施設物使用契約上の慶寿の地位を承継したものと解するのが相当である。

したがって、経営委託契約であることを前提とする本件契約の終了に関する控訴人の主張(請求原因2(三))は理由がない。

三  そこで、本件契約の期間満了等における終了に関する控訴人の主張について判断する。

1  まず、本件契約に対する借家法の適用の有無について検討する。

(一) 控訴人は、本件店舗は、国鉄高架下の施設であり、しかも、慶寿が東京高架より借り受けている部分をさらに区切った一部であって、独立性に乏しいから借家法の適用がある「建物」とは言えないと主張する。

同法にいう建物とは、土地に定着し、周壁、屋根を有し、住居、営業などの用に供することのできる永続性のある建物を言い、必ずしも一戸独立の建物のみを指称するものではなく、当該賃貸借の部分が障壁その他によって他の部分と客観的に明白に区画され、独立的排他的な支配を可能ならしめる構造と規模を有するものであるときは、なおこれを同法の建物と言うに妨げないものと解するのが相当である。

これを本件について見るに、《証拠省略》によれば、右施設物は国鉄の高架下を利用して作られたものではあるが、なお土地に定着して、周壁を有し、鉄道高架を屋根としており、永続して営業の用に供することも可能であると認められるのみならず、本件店舗部分についても、隣の部分とはブロックにベニアを張って壁を作ることによって客観的に明確に区別されており、これに対して独立的排他的な支配を行うことは十分可能であると認めることができるから、本件店舗もなお借家法にいう「建物」に該当すると解するのが相当である。

(二) また、控訴人は、慶寿が東京高架より承認された本件施設物使用の権利については、国鉄運営上の諸制約があり、借家法をそのまま運用すべきではないと主張する。

《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

東京高架は、国鉄から国鉄用地等の使用管理を委託されて、その業務を行っている。東京高架が、管理を委ねられている国鉄高架下の施設物について他に使用を承認する場合には、右施設物が国鉄の運転確保にとって極めて重要な位置にあり、そのため、国鉄の諸法規により制約を受けるものであることを契約の相手方に十分認識させた上で、相手方との間で、東京高架が国鉄からの要求に基づいて施設物の明渡を請求した場合には、相手方は、これに対して何らの異議を述べることなく東京高架の指定する期日までに右施設物を明渡す旨の合意をしている。東京高架と慶寿との間の本件施設物使用契約においても同様の合意がある。

以上の事実が認められる。

右の合意は、国鉄の公共的な性格を考慮してなされているものと解することができるが、他方で、《証拠省略》によれば、その第一九条の(1)においては、施設物使用期間中であっても契約が終了する場合として東京高架が慶寿に対し正当な理由に基づく解約の申し入れをした後六か月を経過したときと規定して、借家法におけると同様の規定を置いているほか、東京高架の義務として、入居保証金及び敷金の返還義務、施設物の修繕義務等も規定しており、これらの規定は通常の賃貸借契約と何ら異なるものとは認められないし、その他の契約条項を見ても通常の賃貸借契約におけるのと極端に異なる条項は格別存在しない。また、《証拠省略》によれば、使用期間は一応三年となっており、東京高架は更新拒絶ができることになっているが、ほとんど更新を拒絶することはなく、慶寿も昭和四七年に契約してから引き続き契約更新によって約一〇年間使用を継続してきたこと、東京高架は施設物の検査その他必要ある場合には施設物に立入る権利が認められているが、その場合においても、原則としてあらかじめ相手方にその旨を通知し、営業の妨害にならないように留意すべき旨定められていることがそれぞれ認められる。

右の事実に照らし考えると、国鉄の公共的な性格を考慮するとき、本件施設物使用契約は借家法の適用のある賃貸借契約ではないと解する余地もないではないが、国鉄の公共的性格を考慮するとはいっても、国鉄が運転保安上の見地等から本件施設物の明渡を求め、これに基づいて東京高架が慶寿に対して明渡を請求する場合には、慶寿は何ら異議を留めることなくこれに応じるとの前記合意の効力が認められればそれで十分であって、右契約の継続的な契約関係に鑑みるとき、右のような場合を除いては、なお借家法の適用ないし準用を排除すべきではなく、結局、本件施設物使用契約は借家法の適用のある賃貸借契約ないしこれに類似した契約であると解するのが相当である。

なお、慶寿と被控訴人との間の本件契約が、実質的には賃貸借契約としての性質を有し、かつ、慶寿と東京高架との間の本件施設物使用契約を前提としてなされたものであることは前記認定のとおりであり、本件において、国鉄がその運転保安上の見地から、本件施設物の明渡を求め、これに基づいて東京高架が控訴人に対し明渡を請求しているという点についての主張、立証は何ら存しない。

2  以上のとおり、本件契約は借家法の適用のある賃貸借契約と認められるから、本件契約は昭和六〇年五月三一日の約定期間の満了にあたり法定更新され、期間の定めのない賃貸借となったものということができる。

したがって、借家法の適用がないことを前提とする本件契約の終了に関する控訴人の主張(請求原因2(四))はすべて理由がない。

四  次に、本件契約の更新拒絶又は解約の申し入れに関する控訴人の主張について判断する。

1  控訴人は、約定期間満了に際し更新拒絶した旨主張するが、期間満了前のいつ借家法二条一項に従った更新拒絶の通知をしたかについての主張がないので、主張自体失当である。

2  控訴人が被控訴人に対し法定更新された後である昭和六〇年八月一三日及び同月二六日到達の書面により解約の申し入れをしたことは当事者間に争いがない。

そこで、控訴人の主張する正当事由について検討する。

(一) 《証拠省略》を併せ考えると、次の事実が認められる。

(1) 慶寿が本件飲食店経営を行っていたとき、次女の小野が同店で手伝いをしていたが、本件契約締結に際し、被控訴人は、慶寿からの頼みにより小野を引き続き同店で雇用することを了承した。

しかし、本件契約の特約として小野の雇用を合意したものではなく、また、小野が同店をやめたのは、他の従業員とトラブルを起こし、そのため、被控訴人と小野との間の話し合いの結果によるものであった。

(2) 被控訴人が昭和五八年四月二二日ころ被控訴人名義で本所保健所より本件店舗につき飲食店営業の許可を受け、昭和五九年一〇月一五日付で右営業を廃業したこととして有限会社フォーカスの名義で飲食店営業の許可を受けた(以上の事実は、当事者間に争いがない)。

被控訴人が右営業の許可を受けたのは、慶寿が被控訴人に対し本件店舗及び本件備品等を賃貸しする際、被控訴人が独立して本件飲食店経営を行うことは了解されており、慶寿は自ら廃業届を作成し被控訴人に交付していたためである。また、有限会社フォーカス名義で営業許可を取ったのは、被控訴人の税金対策上から自己を代表取締役とする右会社を設立して、便宜右会社によって本件飲食店経営を行うことを企図した結果であり、実際の経営形態には何んらの変更もなかった。

(3) 慶寿と東京高架との間の本件施設物使用契約には、施設物を第三者に使用させたり、その権利の譲渡等を行うことを禁止する特約があり、東京高架は控訴人に対し施設を被控訴人に使用させる状況の解消を通告してきた(以上の事実は、当事者間に争いがない。)

慶寿と被控訴人とは、本件契約を締結する際、慶寿と東京高架との間に右特約があり、これに違反した場合東京高架において直ちに契約の解除ができることになっていたことを双方承知のうえ、本件店舗の転貸借契約を締結した。そして、本件賃貸借の存在が東京高架に知れ、東京高架は控訴人に対し、右の通告をしてきたが、東京高架は、控訴人に対し、直ちに本件施設物使用契約を解除し、本件施設物の返還を要求する等の態度を示しておらず、控訴人と被控訴人との間の合意がいかなるものでも、その内容に従うという柔軟な態度を示していた。

(4) 被控訴人が昭和六一年五月四日ころ本件店舗内の改装工事をしたことにたんを発し、控訴人主張のとおり、控訴人は被控訴人に対し工事中止の仮処分を申請し、その後被控訴人と控訴人との間に和解が成立して、本件判決言渡に至るまで工事をしてはならないことになった(以上の事実は、当事者間に争いがない。)。

被控訴人が、右改装工事を行ったのは、本件店舗内の根太及びたたみ床が老朽化し、床が抜け、客が座れないような状態になったため、その修理を同年三月ころから再三にわたり控訴人に申し入れたが、控訴人がこれに応じないため、飲食店の営業が出来なくなる恐れからやむを得ず、自らの費用で行ったものである。

(5) 被控訴人は、東千代美を雇われマダム的立場で雇用したにすぎない。本件店舗の経営の主体及び責任は、いずれも被控訴人にある。

(6) 省悟は、本件店舗を接客の場として時々使用することはあっても、東京都議会議員としての政治的活動のための事務所として使用していることはない。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

3  以上によれば、本件契約における解約の申し入れの正当事由が存在するとは到底認められない。

したがって、その余の点に触れるまでもなく、借家法に基づく本件契約の終了に関する控訴人の主張(請求原因2(五))は、すべて理由がない。

第二  本件備品等の引渡し及びその使用損害金請求について

請求原因3(一)及び(二)の事実、すなわち、控訴人が慶寿から昭和六〇年八月七日本件飲食店の経営権及びそれに伴う本件備品等の所有権を譲り受け、被控訴人が本件店舗内で飲食店営業を行い本件備品等を占有していることは当事者間に争いがない。

慶寿と被控訴人との間で、昭和五七年五月三一日本件店舗及び本件備品等に関して、これを一体のものとして本件契約が締結され、被控訴人が本件備品等を占有していること、右契約は借家法の適用ある賃貸借であり、昭和六〇年五月三一日約定の期間の満了により法定更新され、それ以後期間の定めのない賃貸借となったが、右契約についての更新拒絶又は解約の申し入れがその効果を生ずることなく、継続していることは、いずれも前記認定のとおりであるから、本件店舗の賃貸借と運命を共にする本件備品等の賃貸借契約もなお継続しているものと認められる。したがって、この点についての控訴人の主張は理由がない。

第三  以上の次第で、控訴人の本訴請求はいずれもこれを失当として棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 猪瀬愼一郎 裁判官 山中紀行 裁判官武藤冬士己は、転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 猪瀬愼一郎)

<以下省略>

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